RPA MEDIA:オリジナル執筆記事
未来予測の名著を読む その1
ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー=著
『2030年 加速する未来に備えよ The Future Is Faster Than You Think』
土方奈美=訳
日本語版=ニューズピックス:東京、2020年12月刊
TEXT BY ERI KAWADE, SENIOR EDITOR, RPA MEDIA
2020年1月。一冊の衝撃的な本がリリースされた——『2030年 加速する未来に備えよ The Future Is Faster Than You Think』だ。日本をはじめ、全世界で翻訳され、瞬く間にミリオンセラーとなり、現在も高い評価を受けつづけている。著者は、アメリカを代表するカリスマ的ヴィジョナリー(未来を見通す先見の明を持つ人物)のひとりで企業家、さまざまな未来のためのビジネスモデルを支援するXPRIZE財団CEOで、シンギュラリティ大学設立者でもあり、イーロン・マスクの20年来の盟友としても知られる、ピーター・H・ディアマンディス博士、そしてジャーナリストで企業家のスティーヴン・コトラーのふたりだ。
本書が描き出す「これから先の10年で訪れる近未来」の世界とは、「指数関数的(エクスポネンシャル)」に進化する複数のテクノロジーが「融合」することで、人類がかつて経験したことのなかったようなスピードで、加速的に大変革が巻き起こる世界だ。そこでは、地球上のさまざまな産業、ビジネス、そして私たちひとりひとりの人生までもが、大きく、そしてすみずみまで多様に変容していく様子が、分析され、語られている。
まずは、本書をまだ読んだことのない読者のために、冒頭の「イントロダクション」から、直接、その声を引いてみよう。
「本書の概要をざっくり説明しておこう。進化するテクノロジー(たとえば人工知能、AI)が、同じく進化する別のテクノロジー(たとえば拡張現実、AR)と合わさったとき、何が起こるのか。もちろんAIもARもそれぞれが強力なテクノロジーだ。だが今、小売り、広告、娯楽、教育をはじめ多くの産業に破壊的変化が起きていて、しかもこれからさらに大きな変化が起ころうとしているのは、両者の「コンバージェンス(融合)」の結果である。
これから見ていくとおり、このようなコンバージェンスが加速度的に起きている。それが世界の変化のスピードと規模を一気に高めてきた。だから声を大にして言いたい。「シートベルトを締めて。相当荒っぽいドライブになるぞ」と。」
「本書の中核を成すのはコンバージェンスという包括的トレンドであり、それが企業、産業、そして私たちの人生にもたらす大きな変化だ。
これからの10年が劇的なブレークスルーと世界を一変させるようなサプライズに満ちたものになるのはまちがいない……私たちの想像を超えて加速する未来、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来する。」
そして、「自動操縦の空飛ぶ車」のエピソードに始まり、「ロサンジェルスからシドニーまでを30分でつなぐ」都市間超高速航空技術の進展、「アバターやロボットの時代」の到来、「5Gや気球、衛星により高速化するネットワーク」の実現に、AI、AR、3Dプリンティング、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなどの最前線の様相、ショッピング、教育、エンターテインメント、広告、保険・金融・不動産、食やライフスタイル、老化防止と長寿健康の先端医療の世界など、多様な分野で起こるであろうさまざまな変化についての見方を、ひとつひとつ、わかりやすく詳細に、シンクタンクやほかの専門家のリサーチも参照しつつ、解きほぐしていく。
さらには、エネルギー産業の行方、地球温暖化や水不足などの危機への対策の動向、世界規模でのリアルな移民時代の始まり、「ヴァーチャル世界や宇宙への移住」に、「個人の意識がクラウドに移行」し共同体がシェアする「メタ知能誕生の可能性」まで、「遠い未来の空想」だと思っていたはずの世界が急速に接近してくる現状が、説得力をもって、伝えられていく。
——いや、ちょっと待って。
本書を読んでいると、刺激的なトピックが次から次へとノンストップで押し寄せてくるせいで、早送りで足早な紹介になって、申しわけない。
けれども、そこで語られている事柄の意義と切迫ぶりは、感じ取っていただけたかと思う。
私が個人的にとくに関心を覚えたのは、以下のようなくだりだ。
「だが広告産業におけるさまざまなテクノロジーのコンバージェンスの勢いは収まらず、変化はこれからも続くだろう。広告は当面、これまで以上に私たちのプライバシーに踏み込み、ますますパーソナルになっていく可能性が高い。だがそれも長くは続かない。それほど遠くない将来、ソーシャルメディア・マーケティング市場そのものが消滅するだろう。それまでに要する時間を、私たちは10~12年と見ている。」
「そう遠くない将来、広告そのものが消えてしまう可能性があるからだ。」
「ブロックチェーンはこのプロセスを後押しする。アーティストは自らの作品の変更不能なデジタルレコードを作成することができるようになり(海賊版の作成は不可能になる)」
最後に——。
本書のラストの章「アフターワード」の中で、著者たちは、「豊かさを再訪して(それでも私たちが楽観主義者でいるべき理由)」というタイトルのもと、これからの世界とそこに生きる人びとについて、たいへん美しく、心を震わせるヴィジョンを描き出している。その一文をご紹介しておこう。
「もちろん、テロ、戦争、殺人といった問題は依然として残っている。独裁政治や疾病が世界からなくなることもないだろう。だが世界は今後もひそかによくなり続ける。そして私たちが目指すべきは贅沢な暮らしではなく、可能性に満ちた世界である。コンバージェンスの推進力のおかげで、豊かな世界の実現に必要な技術進歩はますますスピードを増している。」
「もちろん、そんな世界は放っておいても自然と実現するものではない。人類はかつてない規模で協力していかなければならない。」
地球温暖化に世界規模のパンデミックの流行、耐えることのない紛争や大規模災害の危機など、明るい未来を思い描くことが困難な今の時代にあって、それでもポジティヴでいつづけ、こうした精神やアティテュードを持ちつづけるには、しっかりと揺るぎない楽観主義が必要になるだろう。
そんなオプティミズムの希望や期待を描き出す、しなやかで強靭な精神の強さも、本書の大きな魅力のひとつとなっている。
興味を持たれた方は、ぜひ手に取って、読んでみてほしい。
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Source: ブロックチェーンメディア
未来予測の名著を読む その1 ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー=著 『2030年 加速する未来に備えよ』